背広の僧侶

タンブンとは、在家信者がお寺や僧侶に寄進することです。

しかし、いかなる寄導あっても、僧侶は礼をしません。

ただ黙って受け取るだけです。

タンブンは在家信者の務めであり、彼ら自身の救いのためです。

むしろ受け取ってもらえ、未来への希望がひらけたとして、在家信者のほうが感謝しなければなりません。

しかし、段々と社会は変わります。

僧侶の気持ちもそれに応じて変わりました。

いつのまにかお金持ちの僧侶ができ、戒律も形骸化するようになってしまいました。


木もれ日が柔かな森のなかのお寺で、説教の声が響いていました。

黄色の衣があちこちにみえ、一般の人も集っていました。

真ん中でマイクをもっているのは、意外にも背広姿でした。

通常、僧侶の説教はあっても、在家信者が僧に教えるということは考えられないのに、目の前でそれが行われているではないですか。

中身が分かろうはずもないのに、石の上に坐って、耳を傾けました。

説教が終わり、拍手もないままに、皆静かに去っていきました。

近くにいた僧侶に聞いてみました。

「どんな説教だったのですか」

「瞑想のすすめですよ。あの人はアメリカで物理学の博士号をおとりになり、長い間NASA(アメリカ航空宇宙局)に勤務されていました。

タイにお帰りになってから、仏教の再興が必要であり、そのためには1人1人がメディテーションを忘れてはならない、とお考えになり、国中を説教して回られるようになったのです。

物ばかり、お金ばかりを求める風潮を批判され、心の平和が必要だと説かれているのです。

背広の僧侶、そう呼ばれていらっしゃる方です。

最近、あの人の考えを聞きたいとする人が多くの国から来るようになりました。

心の問題を瞑想と仏の手にすがって解決しようとする人が増えたのです。

科学だけですべてを解決するには、あまりにも人間と社会は複雑なのです」。

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